「リーダーになりたい」
そう思ったとき、多くの人は、仕事ができること、決断が早いこと、強い意志を持っていることなどを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それらも大切な力です。
しかし、本当に人から信頼され、長く慕われるリーダーになるためには、それだけでは足りません。
大切なのは、公平な心を持つことです。
自分の好きな人だけを大切にするのではなく、苦手な人の意見にも耳を傾ける。
自分の意見を押し通すのではなく、相手の意見にも価値があると考える。
部下が失敗したとき、すぐに責めるのではなく、「何があったのだろう」と考える。
そして、自分が間違っている可能性も受け入れる。
このような姿勢を、ジェームズ・アレンは「公平無私」という言葉で表しています。
ところが、公平無私であるためには、大きな壁があります。
それが、自分の感情です。
腹が立っているとき。
悔しいとき。
自分を否定されたように感じたとき。
誰かを好き嫌いで見ているとき。
そんな状態では、相手を公平に見ることが難しくなります。
だからこそ、アレンは「公平無私」と「冷静さ」を深く結びつけています。
ジェームズ・アレンは、次のように語っています。
「冷静でない人は公平無私になることはできません。
興奮、先入観、偏見は、激情による心の乱れから生じるのです。
人間の感情は、妨害されると、せき止められた水の流れのようにかさを増します。
冷静な人は、このようなとき、感情を主観から客観へと切り替え、心の乱れを避けようとします。
そうすることで、自分のことのように、他人を思いやり、自分の意見と同じくらい、他人の意見を大事にすることができるようになるのです。」
この言葉には、リーダーを目指す人にとって、とても大切な教えがあります。
それは、
「人を導く前に、自分の心を導ける人になろう」
ということです。
では、なぜリーダーには公平無私が必要なのでしょうか。
そして、公平無私であるために、なぜ冷静さが必要なのでしょうか。
一緒に考えてみましょう。
優れたリーダーに「公平無私」が必要な理由
リーダーとは、単に人の上に立つ人ではありません。
本当のリーダーとは、人と一緒に進む方向を考え、人を支えながら、みんなを導いていく人です。
そのためには、一人ひとりを公平に見ることが必要です。
たとえば、職場に二人の部下がいたとします。
一人は、自分と気が合う人。
もう一人は、自分とは考え方が合わない人です。
自分と気が合う人が失敗したときには、
「今回は仕方がないよ」
と言う。
ところが、気が合わない人が同じ失敗をしたときには、
「また失敗したのか」
と厳しく責める。
これでは公平とは言えません。
リーダーが好き嫌いによって判断してしまうと、周りの人はすぐに気づきます。
「この人は、あの人には甘い」
「自分の意見に反対する人を嫌っている」
「気に入った人の話しか聞かない」
そう思われるようになると、少しずつ信頼がなくなっていきます。
反対に、公平なリーダーは、好き嫌いで人を判断しません。
自分と意見が違っても、
「あなたは、そう考えるのですね」
と話を聞きます。
失敗した人に対しても、
「何が原因だったのだろう?」
と一緒に考えます。
そして、自分に対する意見であっても、正しいと思えば受け入れます。
こういう人は、周りから安心して話しかけてもらえます。
「この人なら、正直に話しても大丈夫だ」
と思ってもらえるからです。
つまり、公平無私とは、単に「みんなを同じように扱う」ということだけではありません。
自分の好き嫌いや感情だけで、人を決めつけないことでもあるのです。
公平な判断を邪魔するものは「感情」
では、なぜ私たちは公平でいられなくなるのでしょうか。
その大きな原因の一つが、感情です。
もちろん、感情そのものが悪いわけではありません。
怒ることもあります。
悲しくなることもあります。
うれしくなることもあります。
誰かを好きになることもあれば、苦手になることもあります。
それは人間として自然なことです。
問題は、感情が強くなったとき、その感情だけで判断してしまうことです。
たとえば、部下から自分の仕事について、
「このやり方には問題があると思います」
と言われたとします。
冷静なときなら、
「なるほど。どこに問題があると思うのか、聞かせてください」
と言えるかもしれません。
ところが、疲れていたり、心に余裕がなかったりすると、
「私のやり方が悪いと言いたいのか?」
と腹が立つことがあります。
すると、その人の意見ではなく、その人自身が嫌になってしまう。
「この人はいつも反対する」
「やる気がない人だ」
などと決めつけてしまう。
しかし、よく考えてみると、相手は単に「もっと良くしたい」と思って意見を言っただけかもしれません。
つまり、事実は一つなのに、自分の感情によって意味が変わってしまうのです。
これが、リーダーにとって怖いところです。
怒りの中にいると、怒りを感じさせた相手が「悪い人」に見えてしまいます。
悲しいときには、周りの人がみんな冷たく見えることがあります。
不安なときには、まだ起きていないことまで悪い方向に考えてしまいます。
だからこそ、アレンは、
「冷静でない人は公平無私になることはできません。」
と語るのでしょう。
冷静さがなければ、心の中にある「好き」「嫌い」「腹が立つ」「悔しい」といった感情が、判断を動かしてしまうからです。
感情は「せき止められた水」のように大きくなる
アレンの言葉の中で、とても分かりやすいのが、水のたとえです。
「人間の感情は、妨害されると、せき止められた水の流れのようにかさを増します。」
水は、流れているときには自然に進んでいきます。
ところが、途中でせき止められると、少しずつ水がたまっていきます。
感情も、それと同じだというのです。
たとえば、仕事で嫌なことがあったとします。
本当は腹が立っている。
でも、
「怒ってはいけない」
と思って我慢する。
次の日、また嫌なことが起こる。
また我慢する。
さらに別の日にも、相手から嫌なことを言われる。
また我慢する。
すると、最初は小さかった怒りが、少しずつ大きくなっていきます。
そして、ある日、ほんの小さな出来事をきっかけに、
「もう我慢できない!」
と爆発してしまうことがあります。
これは、最後に起きた出来事だけが原因ではありません。
それまでにたまっていた感情が、一気にあふれたのです。
だから、冷静なリーダーは、感情を無理やり押し込めようとはしません。
「今、自分は怒っている」
「今、悔しいと思っている」
「今、相手に対して嫌な気持ちを持っている」
と、自分の心を見つめます。
ここで大切なのは、感情を消すことではありません。
感情があることを認めながら、その感情に行動を決めさせないことです。
怒っている。
でも、すぐには叱らない。
悔しい。
でも、相手を傷つける言葉を言わない。
納得できない。
でも、相手の話を最後まで聞く。
これが冷静さです。
冷静な人とは、何も感じない人ではありません。
強い感情が生まれたときにも、その感情から一歩離れて考えられる人なのです。
そして、この「一歩離れる力」が、リーダーに公平な判断を与えてくれます。
「主観」から「客観」へ~冷静さは一歩離れて見る力
ジェームズ・アレンは、冷静な人について、
「冷静な人は、このようなとき、感情を主観から客観へと切り替え、心の乱れを避けようとします。」
と語っています。
ここに、冷静さの大切なポイントがあります。
では、「主観から客観へ切り替える」とは、どういうことでしょうか。
簡単に言えば、
「自分の立場だけから見るのではなく、一歩離れて全体を見る」
ということです。
たとえば、部下が自分の指示に従わなかったとします。
自分の立場だけから見ると、
「言うことを聞いてくれない」
「自分を軽く見ているのではないか」
「リーダーとして認められていないのかもしれない」
と感じるかもしれません。
これは「主観」です。
もちろん、自分がそう感じたことは事実です。
しかし、それだけでは全体は分かりません。
そこで、一歩離れて考えてみます。
「なぜ、指示に従わなかったのだろう?」
「何か別の考えがあったのだろうか?」
「私の説明が分かりにくかったのではないか?」
「本人には本人なりの理由があるのではないか?」
このように考えると、見えるものが変わってきます。
もしかすると、部下は反抗したかったのではなく、
「この方法では、お客様に迷惑がかかる」
と思っていたのかもしれません。
あるいは、
「もっと良い方法がある」
と考えていたのかもしれません。
つまり、最初は「自分に逆らった」と見えていた行動が、
「仕事を良くしようとしていた行動」
だった可能性もあるのです。
もちろん、本当に相手が間違っていることもあります。
しかし、冷静になることで、
「相手が悪い」と決める前に、事実を確かめることができる。
これが客観的に見るということです。
リーダーにとって、この力はとても大切です。
なぜなら、リーダーの判断は、自分一人だけでなく、周りの人の仕事や生活にも影響するからです。
感情で判断する人の下では、周りの人は安心できません。
しかし、一度立ち止まって考えてくれるリーダーの下では、
「ちゃんと話を聞いてもらえる」
という安心感が生まれます。
そして、その安心感が信頼につながっていくのです。
自分の意見と同じくらい、他人の意見を大切にする
アレンの言葉には、さらに大切な教えがあります。
それは、
「そうすることで、自分のことのように、他人を思いやり、自分の意見と同じくらい、他人の意見を大事にすることができるようになるのです。」
という部分です。
これは、リーダーを目指す人にとって、とても大切な言葉ではないでしょうか。
リーダーになると、自分の考えを周りに伝える場面が増えます。
「こうしたほうがいい」
「この方向で進もう」
「これをやろう」
と決断しなければならないこともあります。
だからこそ、リーダーには決断力が必要です。
しかし、決断力と「自分の意見を絶対に曲げないこと」は違います。
本当に強いリーダーは、
「自分の意見を持ちながら、他人の意見も聞ける人」
です。
「私はこう考えている。でも、あなたはどう思う?」
と言える人です。
これは簡単なようで、実は難しいことです。
なぜなら、人は自分の考えを否定されると、自分自身を否定されたように感じることがあるからです。
「その考えは違います」
と言われると、
「自分を否定された」
と感じてしまう。
そこで怒ったり、相手を言い負かしたりしたくなります。
しかし、冷静な人はそこで一呼吸置きます。
「自分の意見と違うだけで、相手が間違っているとは限らない」
と考えるのです。
そして、
「なぜ、そう考えるのですか?」
と聞いてみる。
すると、自分では気づかなかったことを教えてもらえるかもしれません。
これはリーダーにとって大きな財産です。
一人の人間が見られる範囲には限界があります。
でも、いろいろな人の意見を聞けば、自分一人では見えなかった問題が見えてきます。
つまり、他人の意見を尊重することは、自分の力を弱くすることではありません。
むしろ、自分の視野を広げることなのです。
冷静なリーダーは「自分が正しい」と証明しようとしない
ここで、もう一つ大切なことがあります。
冷静なリーダーは、
「自分が正しいことを証明する」より、「何が正しいのかを一緒に探す」
ことを大切にします。
これは、とても大きな違いです。
「私がリーダーなのだから、私の言うことを聞きなさい」
という考え方では、周りの人は意見を言えなくなります。
一方、
「私はこう考えている。でも、もっと良い考えがあるなら教えてほしい」
というリーダーなら、周りの人も意見を言いやすくなります。
すると、組織の中にさまざまな考えが集まります。
もちろん、すべての意見を採用する必要はありません。
最後にはリーダーが決めなければならないこともあります。
しかし、
「意見を聞いた上で決める」
のと、
「最初から意見を聞かない」
のでは、大きな違いがあります。
そして、たとえ自分の考えを採用したとしても、
「みんなの意見を聞いた上で、この方向に決めました」
と伝えれば、周りの人も納得しやすくなります。
人は、ただ命令されたいわけではありません。
自分も大切な一人として扱ってほしいのです。
だからこそ、公平無私なリーダーは、人を「道具」として扱いません。
一人ひとりを、一人の人間として尊重します。
冷静さは、生まれつきの性格ではない
では、ここまで読んで、
「自分は感情的だから、冷静なリーダーにはなれない」
と思う人もいるかもしれません。
でも、私はそうは思いません。
冷静さは、生まれつき決まっている性格ではなく、日々の心の使い方によって育てていけるものだからです。
最初から、いつでも冷静でいられる人はいません。
怒ることもあります。
失敗することもあります。
感情的になって、言い過ぎてしまうこともあります。
大切なのは、その後です。
「なぜ、あんなに怒ったのだろう?」
「自分は何に傷ついたのだろう?」
「相手の話を最後まで聞いただろうか?」
「自分にも悪かったところはなかっただろうか?」
と振り返ってみる。
この振り返りが、次の冷静さを育てます。
たとえば、以前ならすぐに怒っていた場面で、一呼吸置けるようになる。
以前なら相手を責めていた場面で、
「何があったの?」
と聞けるようになる。
以前なら自分の意見を押し通していた場面で、
「あなたはどう思う?」
と言えるようになる。
このような小さな変化が積み重なって、少しずつ人格が変わっていきます。
冷静さは、一日で完成するものではありません。
毎日の小さな練習によって育っていく力なのです。
冷静さを育てる五つの習慣
では、実際に何をすればよいのでしょうか。
難しいことをする必要はありません。
まずは、次の五つを意識してみましょう。
① 感情が動いたら、一呼吸置く
怒った瞬間に言葉を返さない。
すぐにメールを送らない。
その場で結論を出さない。
「今、自分は怒っている」と気づくだけでも違います。
② 「事実」と「自分の考え」を分ける
「相手が私を嫌っている」
これは事実でしょうか。
それとも、自分の解釈でしょうか。
「相手はこう言った」という事実と、
「だから相手は私を嫌っている」という解釈を分けるだけでも、心は落ち着きます。
③ 相手の立場から考える
「もし自分が相手の立場だったら、どう感じるだろう?」
と考えてみます。
相手を好きになる必要はありません。
相手の行動を許す必要もありません。
ただ、相手にも相手の事情があるかもしれない、と考えるのです。
④ 自分の間違いを認める
「自分も間違うことがある」
と認めます。
これは弱さではありません。
むしろ、間違いを認められる人ほど、成長できます。
⑤ 一日の終わりに心を振り返る
「今日は感情的になった場面があっただろうか?」
「相手の話をちゃんと聞いただろうか?」
「公平に人を見られただろうか?」
と振り返ります。
失敗を責めるためではありません。
明日、少しだけ良くなるためです。
「慕われるリーダー」は、人を支配しない
ここまで考えると、アレンの言葉が伝えているリーダー像が見えてきます。
本当に優れたリーダーとは、声が大きい人でも、何でも一人で決める人でもありません。
人を恐れさせて従わせる人でもありません。
人から自然に信頼される人です。
そのためには、まず自分の心を整える必要があります。
怒りに支配されない。
好き嫌いに流されない。
先入観だけで人を判断しない。
自分と違う意見にも耳を傾ける。
自分が間違っている可能性を受け入れる。
そして、一人ひとりを大切な人間として扱う。
そういうリーダーのもとでは、周りの人も安心して力を出すことができます。
「この人には本当のことを話しても大丈夫」
「失敗しても、頭ごなしに怒られない」
「自分の意見も大切にしてもらえる」
そう感じるからです。
人は、命令だけでは長く動きません。
しかし、信頼があれば、自分から動くようになります。
だから、リーダーシップの根っこにあるのは、支配する力ではなく、信頼される人格なのではないでしょうか。
人を導く前に、自分の心を導こう
ジェームズ・アレンは、こう語っています。
「冷静でない人は公平無私になることはできません。 興奮、先入観、偏見は、激情による心の乱れから生じるのです。 人間の感情は、妨害されると、せき止められた水の流れのようにかさを増します。 冷静な人は、このようなとき、感情を主観から客観へと切り替え、心の乱れを避けようとします。 そうすることで、自分のことのように、他人を思いやり、自分の意見と同じくらい、他人の意見を大事にすることができるようになるのです。」
この言葉は、リーダーを目指す人にとって、大きな道しるべになると思います。
リーダーになると、人を導かなければなりません。
決断しなければならないこともあります。
厳しいことを伝えなければならない場面もあります。
だからこそ、強い心が必要です。
しかし、その強さとは、怒りをぶつける強さではありません。
自分の意見を押し通す強さでもありません。
感情が動いたときに、一歩立ち止まれる強さ。
自分と違う意見を聞ける強さ。
自分の間違いを認められる強さ。
相手の立場を考えられる強さ。
それが、本当の意味での心の強さなのではないでしょうか。
公平無私であるためには、冷静さが必要です。
そして冷静さは、感情をなくすことによって生まれるのではありません。
感情を感じながらも、その感情から一歩離れて見ることによって育っていきます。
怒ったときに、一呼吸置く。
すぐに人を決めつけない。
相手の話を最後まで聞く。
自分と違う意見にも耳を傾ける。
自分の間違いを認める。
そんな小さな練習を、毎日続けていく。
すると、少しずつ心の中に余裕が生まれてきます。
そして、その余裕が公平な判断を生みます。
公平な判断が、人への思いやりを生みます。
思いやりが、信頼を生みます。
そして信頼が、人を自然に動かしていくのです。
だから、リーダーを目指す人が最初に学ぶべきことは、
「どうすれば人を動かせるか」
ではないのかもしれません。
それよりも、
「どうすれば自分の心を正しく扱えるだろうか」
と考えることです。
人を導く前に、自分の心を導く。
人を変えようとする前に、自分の心を整える。
自分の正しさを証明する前に、相手の話を聞く。
そうした姿勢を持つ人のところには、少しずつ人が集まってきます。
そして、その人が何かを語るとき、
「この人の話なら聞いてみよう」
と思ってもらえるようになります。
それこそが、肩書きや権力ではつくれない、本当のリーダーシップなのではないでしょうか。